施設内虐待の予防,  連載

施設内虐待を防ぐ方法を考えてみた(No.050)

7 施設と児童相談所の協力関係

調査は出来るだけ短時間で終了させなければなりません。その為に調査者は、施設の協力を得る必要があります。調査は、誰かをやっつける為に実施するのではなくて、より良い施設支援を目標としていますから、調査者は単純なパワハラにならないよう調査を進めていくことが大切です。とはいえ、どうしても日頃の施設と調査者(児相)の関係が反映してしまうのは仕方ありません。普段の確執が表に出たり、「いっぺん、やっつけたろう」と待ち構えられていたら、それはもう諦めるしかありません。

 そんな特殊な場合を除いて、施設職員が「私たちは、難しい子どもたちの支援を全力で取り組んでいる」と信じていたり、または「こんなに頑張っているのになんで調査されるのか」と被害意識が生じて「悔しい」とか「切ない」という気持ちに陥ってしまうかもしれません。繰り返しますが調査は、誰かを悪者にすることを目的にしていません。調査のスタートは、通告内容が事実か否か、事実であればそれが虐待にあたるかどうかを判断する材料を集めることが目標です。

 報告書第一報は、①「通告と対応の経過概要」、②「調査による事実確認の結論」③「具体的対応の方針」の3点に絞られます。発生原因と再発防止策は、言い訳とセットになりますから、じっくりと検証を待ってからとなります。

 ただし、組織的な施設内虐待、例えば「不合理または理不尽なルール・習慣・伝統」などです。施設長が承知しているかどうかに関わらず報告書第一報に原因を掲載することになります。こういう事例は、最近の施設では珍しいと思いますが、個別処遇(支援)とかクールダウンという名目であっても「内側から開けられない部屋に閉じ込める」、「この部屋から出てはいけないと指示する」ことが恒常的に行われている事案では、組織的な虐待なのだと判断します。

 まして、調査者(児相)が虐待を承知している場合などは児相を含めたシステムとしての虐待となってしまいます。そういう場合に誰が調査するのかと質問されたら、「分かりません」と答えるしかありませんね。

8 マスコミ対応

 調査報告書が完成すると関係機関が報告を共有します。マスコミへの発表は、地域や自治体によって違っています。虐待の内容によっても、発表するかどうかの判断の材料です。子どもたちは、それぞれに学校に通っていますから、性的虐待で被害児童が特定できるような場合には、発表を控えるということもあります。

 マスコミへの発表は、調査者(児相)や都道府県等の担当課が記者を集めて発表する場合もあります。報告書の概要だけで発表するということは少ないようです。

 発表の内容は、①「事案の概要、発生日時」②「施設名、施設区分、所在地、施設長の氏名、職員数等」③「被害児童の人数と現在の様子」④「通告から対応(調査)の経過」⑤「今後の対応方針」が通常です。公立施設で担当課に人事権があれば、加害者や関係者の処分(懲戒)について言及します。法人の施設であれば施設の監査担当としての今後の指導方針について説明します。

 施設側としては、マスコミへの発表はやめて欲しいというのが本音ですが、基本的に発表はやむを得ないという前提で体制を組むことがお勧めします。

 マスコミは、権力者のエラーや虐待、権利侵害に敏感なので発表されたら、必ず施設への取材が入り、施設長が取材を受けることになります。一般的には、施設長と副施設長が対応します。内容によっては、弁護士が同席するという方法もあります。副施設長が経過を説明して、謝罪が必要であれば、心を込めて謝罪しなければなりません。

 発表する内容は、調査報告と同様ですからマスコミへの発表と同時に調査報告書を手に入れておく必要もあります。また、記者会見というスタイルになりますから、施設内で行うよりは、子どもたちの気持ちを考えて、どこか施設外の会議室を確保するなどの配慮も必要です。この為には児童相談所がマスコミ発表をする際に施設の記者会見の場所と時間を伝えていただくような協力をお願いすることも対応の課題です。

 マスコミ対応は、基本的に弁明の機会ではありませんから、余程のことがない限り謝罪に徹することが適当ではないでしょうか。マスコミの質問は、児童福祉施設のことを知らないままでの質問もありますが、丁寧に説明しないと誤解を受けます。原因や経過の説明や回答が報告書と違っていると更に質問が重なります。マスコミの皆さんも報告書や施設長の談話をそのまま掲載する訳ではありませんから、マスコミの質問で想定しておくのは、①「被害児童はどうしているか」、②「他にも同様の事案はあるか」、③「事案発生の原因は何か」、④「今後の防止策はどうか」というところです。

 安易に改善策を発表すると実現できない場合もありますから慎重に回答しなければなりません。夜間に起きた身体的虐待の防止策として「宿直者を複数にします。」と思い付きで回答して、後に信用を失った施設長を覚えています。調査報告書を事前に手に入れても、具体的な改善策の記載はありませんから、「児童相談所をはじめとする関係機関、関係者と協議・検証し具体的な防止策を定め改善に努めます。」という回答が適当ですね。こんな返事でマスコミが納得するかどうかは保証の限りではありません。

 もうひとつ、大切なことはマスコミを通じて、入所児童の家族・保護者にも事案の概要が届くということです。マスコミ発表の情報があれば、できれば家族・保護者の皆さんに手分けして、「報道される内容」、「子どもの状況」、「被害を受けた子どもの家族・保護者であること」、「あるいはそうではないこと」を伝えておく必要があります。更に一般の方から電話やSNSでの意見・論評が届くこともあります。一般的には、マスコミ発表と同時にホームページやSNSを凍結しておくなどの対応も必要かと思います。

 ※「施設に火をつける」とか「施設長の家族をめちゃくちゃにしてやる」というような過激な電話がかかってくることもあります。冷静に「脅迫ですか?」と返事するのが適当です。また、さまざまな内容の電話やメールに対応する担当も事前に決めておく必要もあります。

 この程度の対応で終われば、ありがたいと感謝するべきだと思います。実際には、関係者だけでなく施設職員全員、あるいは他の施設の職員も重苦しい気持ちになってしまいます。留意しておかなければならないのは、身体的虐待と発表されると警察が介入するということもあります。被害者と加害者がいるのですから仕方ありません。

 やっと調査が終わってマスコミ対応までたどりつきました。施設内虐待防止は、発生時の対応準備をしておくということです、実際には役に立たない方が良いのですが、「施設内虐待がなくならない」という前提では、大変重要な準備です。準備をしておくといかにも「うちの施設は施設内虐待があります。」と宣言しているようですが、地震への対策と同じことですから気にしないでください。次回は、調査報告第1報から検証と再発防止、そして子どもたちへの対応を考えます。施設内虐待発生から施設が回復するのは、困難の連続ですがその道程が、まさに虐待発生の防止策となります。

連載第1回 施設内虐待を防ぐ方法を考えてみた(NO.010)

連載第2回 施設内虐待を防ぐ方法を考えてみた(NO.020)

連載第3回 施設内虐待を防ぐ方法を考えてみた(NO.030)

連載第4回 施設内虐待を防ぐ方法を考えてみた(NO..040)

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