思い付き

ヤングケアラーのことを考えた

1 家族の問題は家族内で解決するという日本の伝統が背景にあると思います。

  • 日本の福祉は、年寄りと子ども、病人、障害者の世話は家庭内で女性が分担するという伝統・習慣があり、家族の世話は家族の誰かが担うという構造が出来上がっています。
  • 幼い弟や妹を背負って小学校に登校するという風景は、昔の日本では決して珍しいことではありません。両親が働くためには止むを得ない選択だったのだと思います。
  • 社会通念は、現在においても、ヤングケアラーを含め、家族が家族を世話することを「美しいこと」、「健気なこと」、あるいは「当然のこと」と評価してしまう風潮があります。
  • もちろん、家族が助け合うことは素晴らしいことで必要なことです。しかし、それは一時的・一過的に評価されることで恒常的に継続するのは決して「美しいこと」ではありません。

2 誰かの世話をすることで子ども(ケアラー)自身の社会的な経験や学業、生活の質に大きく影響が生じることが問題のひとつです。

  • 弟や妹を背負って登校するようなことは、最近はあり得ないことですが、例え登下校の前後に弟妹の世話をする程度のことでも、一定以上になれば、ケアラー自身の生活の質が低下します。
  • 元々、ケアを必要とする人(お年寄り、障害者、乳幼児等)は、セルフケアが不十分なのだからです。その人たちを世話すると言うのは相応の労力と緊張、ストレスも伴います。事故があれば責任を問われてしまうと言うこともあります。そのような心身へのストレスがケアラー自身の成長に影響しないと言うことはあり得ません。
  • 連続する課題として、若年のケアラーに十分な対象者へのケアを期待することはできません。だって、ケアラーは子どもだもの

3 幼い弟妹の世話は、成長に伴ってある程度解決に向かってゆきます。しかし、ケアを必要とする人が父母・お年寄りの場合には、時間の経過と共にケアの内容が重度化していきます。

  • 特にケアの対象が父母(またはどちらか)であった場合には、本来ケアラーが受けるべきケア(親の養育義務)が不十分となってしまいます。
  • また、家族が精神疾患の場合にヤングケアラー自身の心身のストレスは重大なことになりがちです。

4 ヤングケアラーにケアを任せることはできない。

  • 本来、福祉的な支援が充実していればヤングケアラーという現象はあり得ないのですが、ヤングケアラー自身が福祉の窓口に出向いて手続きをすることはできません。未成年は契約できないので、たとえ制度にあっても子どもが契約者とはなり得ないのです。(例えば介護福祉サービス)、(代理人がいれば可能ですが・・)
  • また、どのような支援制度があるのか、利用できるのかという情報も届きません。
  • ケアの対象となる家族への支援も届かないと言うことになってしまいます。

5 家庭という密室での出来事が問題の表面化を阻んでいました。

  • ヤングケアラーは、自身の窮状を自覚できず、当然のこと、やむを得ないこととして日々を過ごしています。
  • それが家庭内で完結していること、誰にも助けを求められないことと家族が思い込んでいると家庭という密室で日々ヤングケアラーは苦悶することになります。
  • 「家族の世話をするのが嫌だ」と主張できる場合もあるでしょうが実際にはできないことの方が多いようです。当然と思い込んでいるからですね

6 ヤングケアラーは「子どもの人権」の問題です。

  • ヤングケアラーが本来の姿でないことに気づくことができ、助けを求めることができれば良いのですが、誰に相談すれば良いのかさえもわからない、身近な人に相談しても、その人がヤングケアラーを「美しいこと」、「当然のこと」と受け止めていると解決には至りません。
  • 本来、大人や社会がなすべきことを子どもがやっているというだけで、その子どもに対する権利侵害なのです。権利侵害の加害者は社会であって決してケアの対象となっている家族ではありません。
  • 幼い弟妹の世話を「させられている」ことは、弟妹の養育責任を放棄している親権者による育児放棄(ネグレクト)と判断されます。同時にヤングケアラーに対するネグレクトでもあります。

7 対策は子どもの意見表明権にあります。

  • 子ども自身がヤングケアラーであって本来の姿ではないということに気づくためには、情報提供が必要です。その上で自分が「どうしたいのか」を問いかけることが必要です。
  • この問題が表面化して、自治体は実態調査をしていますが具体的な解決には至りません。また、「ヤングケアラー相談窓口」を電話やLINEに開設しています。
  • 重大な権利侵害(例えば 世話を優先して登校できない等)があれば、家族への積極的な介入が必要になりますが、多くはケアの対象となっている家族へのサポートをすることでヤングケアラー自身の負担を減らす程度のことだと思います。
  • ヤングケアラーに必要な情報を提供し、その後の意見表明によって対応するというのが基本です。ご本人が不適切な判断をされた場合には、時間をかけるかまたは強制的に介入してゆくということが必要です。「本人の意見を尊重する」と言っても明らかに間違った意見は「大人の役割」として正しく対応しなくてはなりません。
  • でも、重要なのは、ヤングケアラーは大変だとはいえご本人が家族と別れて暮らす(逃げ出す)ことを優先して考えることは少ないと思います。いくら周囲の大人が「不自然だ」、「良くない」と言っても、本人にすれば毎日のことなのです。家族と共にある方が本人にとっては当たり前のことなのです。
  • ご本人が逃げ出すと同時に家族は崩壊してしまうということになりかねないのです。そこがヤングケアラーの対応の難しいところです。ケアの対象となっている家族が家庭から出てゆく場合も同じです。しかも、それがご本人の判断や選択に委ねられているというときには、とても辛い判断になってしまいます。

8 ヤングケアラーは「貧困の再生産」

  • 家族の世話をしなければならないのには、単に押し付けられているのではなく、それなりの家庭の事情が必ずあります。例えば「昼も夜も働かなければ食べて行けない」、「(障害や病気で)親が働けない」等々の事情です。怠け者の親もいるけど・・。
  • つまり、基本は家庭の経済事情に左右されるのです。大概のことはお金で解決できるといえば、お金がないからヤングケアラーが発生してしまうのです。
  • そしてヤングケアラーが登校できない、家庭学習の時間が取れない、心身のストレスを常に抱えている等々は学業成績に直結します。その為、本来の力が発揮できないまま、あるいは家族の世話を抱えたままで成長してゆくと標準的な収入の職業につけないままという事例はたくさんあります。そして、更に貧困の連鎖が続いてゆくということになります。

 2022年10月

 ふとしたことで「ヤングケアラー」のことで質問がありました。知識と経験で考えるとこんな感じになりました。なかなか面白いプレゼンティーションになりましたのでホームページを通じて共有します。

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