施設内虐待の予防,  連載

施設内虐待を防ぐ方法を考えてみた(NO.020)

4 虐待加害者だけに「責任」があるのだろうか

人間に元々、暴力的な素質があるのなら、誰でも暴力加害者になる可能性があります。でも、入所児に虐待をするのは施設職員に限られています。施設内虐待が発生した場合には、当然のように職員個人の責任を問います。でも、それで良いのでしょうか。

 施設内虐待の加害職員が他の施設で再度、虐待を行うということもありそうです。その為、他の施設での勤務経験のある採用応募者を単純に「施設経験者」ということで優先して良いのかという心配まで引き起こします。性暴力加害で免職になった教員に免許を再交付しないという法律が成立しました(2021年5月28日)。すでに被害者が発生してからの対応です。一般的に「性犯罪者は、再犯率が高い」と言われていますから、対応は適切だとおもいます。

 施設全体を見回して、たくさんの中に一人だけ変なのがいて、その他の人は大丈夫ということはありません。勿論、非暴力を学んでいる職員もいるでしょうが、学んでいない学びが不十分という職員がいることはありそうです。この職員を選別することは、単変難しいことです。タクシーのように頭の上に「暴力タイプ」とか「非暴力タイプ」と看板を揚げてくれていたら都合が良いのです。先に述べたように「まだ何もしていない」職員にペナルティを課すことや、「あなたは暴力タイプなので退職してください」などと伝えることはできません。

 加害者になりそうな人がいても、被害者が発生しないと施設内虐待にはなりません。ところが、被害者が被害を自覚していないことも多数あります。「僕が悪いことをしたから、殴られたんだ。」とか「愛し合っている。」、「誰かに言うともっと酷い目にあう」等と被害者が思っていると被害が被害でないままとなってしまいます。加害者も被害者も分からないという現象が起こっているのかもしれません。

5 施設内虐待は「あってはならないこと」なのだろうか

 施設内虐待が発生した場合に施設長が会見して「あってはならないことが生じました。」と謝罪するのが定型のスタイルになっています。「職員に裏切られた。」とか「想定外」ではなく「あってはならないこと」とはおかしな表現だと思います。施設内虐待は、無くて当然なのですが、同じくらいあっても不思議なことではありません。地震や火災を想定した避難訓練が「祈りの儀式」ではないことを皆さんは、よくご存知です。施設内虐待も、発生を想定した対策や準備が必要です。施設で働くことは、常にポジティブを求められていますが、それは楽観的ということではなく、自然災害であれ火災であれ最悪の事態を想定しなければなりません。施設内虐待も同じように最悪を想定する必要があります。

 まだ発生していない施設内虐待を自然災害や火災のように「今ここにある危機」と考えるのは、難しいと思いますが、施設内虐待が発生した時の子ども・職員・施設、更に業界へのダメージを想像すると「発生して当然のこと」と捉えておかなければなりません。

 かといって、施設内虐待防止の努力は、失敗した時のダメージに比べると見返りはありません。「あなたの施設では、施設内虐待がありませんね。素晴らしいことです。」と誉められることはまずありません。施設内虐待は無くて当たり前のことです。だから、「あってはならないこと」なのでしょうが、発生してからでは、どのような言い訳も通じません。

厚生労働省 資料から

6 施設内虐待防止と子どもの権利擁護の取り組み

 施設内虐待は、「大人が子どもにしてはならないこと」です。子どもの権利擁護とは「大人が子どもにするべきこと」なのです。子どもの施設は、「子どもの最善の利益」を目標に日々の支援を行なっています。「してはならないことをしない」のは目標になりにくいですが、実際にはこれがとても難しいということも現実の発生件数が物語っています。

 毎年の通告・届出件数は、100件未満にとどまっているようですが、予想としては、もっと多くの施設内虐待が潜在しているに違いないと信じています。身体的虐待が常習化している施設は少ないと思いますが、その他のネグレクト・心理的虐待・性的虐待は、分かりにくいのが実情です。施設では虐待があって当然と考えれば、通告・届出件数の2倍あるいは10倍の虐待事例があっても不思議ではないと思います。「あってはならない施設内虐待」、「あるはずのない施設内虐待」は確かにあります。

参考:被措置児童等虐待届出等制度の実施状況について

連載2回目となりました。不定期の連載になると思いますが、意欲と集中力を総動員しています。ご意見や感想をお寄せください。2021年6月9日

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