施設内虐待の予防,  連載

施設内虐待を防ぐ方法を考えてみた(No.030)

6 施設内虐待が発生したら

届出とか通告とか

6-(1) ダメージを受ける

 施設内虐待への対応とダメージを考えてみましょう。児童相談所での経験を踏まえ、施設内虐待の対応を心情も含めて検討しました。通告を受けた児童相談所や自治体は、どのように対応するのでしょうか。

 届出は、被害児童本人、通告はその他の人と区分されていますから、閉鎖された施設でも、近隣住民や出入りするボランティア、出入りの業者から「泣き声が止まらない」とか「ひどい叱り方だ」、「きちんとお世話がされていない」という通告があるかもしれません。そう考えれば、施設内虐待は身内の出来事ではなく、常に誰かが見ているという気持ちが必要になります。

 外部からの通告というのは、とても恥ずかしいことです。施設長は、管理者としての能力、施設職員はコンプライアンスの意識が低下しているということで一気に信用を失ってしまいます。信用の低下は通告の調査をする児童相談所の職員にも生じます。施設内虐待の調査は、より厳しい姿勢になってしまいます。児童相談所は、通報が虐待であってもなくても、措置権者としての責任が問われるだけでなく、仲間だと思っていた施設に裏切られたということです。個人ではなく施設なので保護者との信頼関係を維持するという配慮も低下してしまうのかもしれません。調査結果は、報告やマスコミへの発表が伴っていることも、調査が厳密に行われ、手抜きや馴れ合いがあると調査自体が厳しい評価を受けるということになります。普通の意識で考えても、厳しい調査は必要だと思います。何より「あってはならないことが発生した」のですから。

6-(2) 調 査

 通告者や届出者が誰であれ、児童相談所は施設管理者や職員全員を疑います。施設が虐待をするという想定がないのは、施設側と同様です。更に多忙な日常業務に施設内虐待が割り込んで来て調査をしなければならないのは情緒的な反応も含め、「虐待でないこと」を願ってしまいます。そう考えながらも「隠蔽」や「隠蔽を試みる」なんてことが分かると一気に正義感が燃え上がってしまいます。隠蔽しようという気持ちは、当然なのかもしれませんが、実際には「バレた時の対応」を考えれば言い訳の項目が一つ増えるのですから、デメリットの方が多いと思います。

 調査は、通告者への聞き取りから始まり、被害児童や周辺の職員、そして加害職員の順番に聞き取りがなされます。施設長や加害職員が通告した場合には当然、順番が変わってしまいます。調査は、「何があったのか」、「いつ」、「どこで」、「それは虐待なのか」が標的です。

 調査の結果、「虐待と認められる場合」と「虐待は認められなかった場合」があります。過去のデータでは、通告・届出の3分の1程度が「虐待の事実が認められた」となっていますが、通告の件数がそれほど増加していないことを思えば、施設内虐待が増加しているというよりも潜在していた施設内虐待が表に出てきたと考える方が妥当です。

6-(3) 施設長はたいへんです。

 「施設内虐待の調査を受ける」、「児童相談所の聞き取りがある」というだけで施設職員には、緊張と動揺があります。当然、子どもたちにも伝わってしまいます。施設内虐待の調査を受けることになった時こそ、施設長の能力が問われます。施設内での重大な出来事なのに施設長が知らないとか、児童相談所から聞いて初めて把握するようでは、上手な言い訳も謝罪もできません。対応によっては、職を失いかねないというのは施設長に限らず、施設職員のみんなに言えることです。児童相談所の調査を待って、対応をするという考えもありますが、児童相談所は、そんな簡単に調査結果を開示してくれません。施設長への聞き取りは、調査の一環であって虐待の疑いに意見を求めてくれることはなさそうです。  施設長は、元々施設内でのことを把握している前提ですから、虐待も把握しているはずなのです。むしろ主体的に調査を行なって事態の把握をする必要があります。やはり、施設長なんて役割は、安易に引き受けるものじゃないって後悔をすることになります。施設内虐待が発生したら、施設長が二番目に大変です。(1番目は被害を受けた子どもです。)

参考:被措置児童等虐待届出等制度の実施状況について

連載第3回目になりました。次回は調査に対して施設が取るべき対応を考えてみます。なかなか、「防止」の話に届きませんが、対応を想定することで予防の具体的な方法が解明されます。 2021年6月29日

連載第1回 施設内虐待を防ぐ方法を考えてみた(NO.010)

連載第2回 施設内虐待を防ぐ方法を考えてみた(NO.020)

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